主人公の工藤正秋は子供ころ阪急ブレーブスが大好きだった。
或る日、仕事帰りの正秋は、ふと西宮球場跡へ足を向けた。
その帰り道、正秋は、亡き父と一度だけ見に行ったブレーブスの試合が
行われていた西宮球場へタイムスリップする。
時代は昭和44年、父と再会した正秋の姿は8才の子供だが50才の記憶を
持ったままだった、そのとき父は35才。
球場を出た後、正秋はタイムスリップしたことを父に打ち明ける。
父は正秋の話を最後には信じた。
そして生きていたときは一度も語られることが無かった父の人生、そして父
の初恋の相手、安子の生涯を知ることになる。
元々、安子と安子の母は韓国の済州島から日本にやってきたのだが昭和35年、
安子は母と共に北朝鮮へ渡る。いわゆる「帰国事業」というものである。
希望を胸に抱き北朝鮮へ渡った安子の人生は壮絶を極める。
話は阪急ブレーブスが中心になっており野球音痴の僕にも面白く読めた。
野球ファンには堪らない内容ではないでしょうか!?
野球にまつわるエピソードが実に細やかで詳しい。
西宮に住んでいて元、ブレーブスファンなら是非、読んで下さい。
最後に。
もちろん、この話はフィクションです。けど末尾の参考文献をみると阪急ブレーブス
の資料が数冊、残りの9冊は「北朝鮮帰国事業関係資料集」「帰国運動とは何だったのか」
「北朝鮮に嫁いで四十年」「北朝鮮からの脱出者たち」など北朝鮮関係が多い。
これを見ると安子の生涯は現実に極めて近いのかも知れない。
そう思うとぞっとする内容。
でも生きる勇気を最後にはもらえます。
とても読み応えのある本でした。
著者の増山実氏は僕と同年代。
「昭和」の話は懐かしかった。
追伸。
実はタイムスリップしたのは正秋だけではなかった・・。
この話の絡みが実におもしろい!
